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東京地方裁判所 平成6年(ワ)23782号 判決

第一事件原告

自由民主党同志会

右代表者会長代行専務理事

吉岡秀太郎

右訴訟代理人弁護士

上野至

第二事件原告

自由民主党同志会

右代表者会長代行専務理事

矢崎武昭

右訴訟代理人弁護士

瀬戸丸英好

第一及び第二事件被告(以下「被告」という。)

株式会社大和銀行

右代表者代表取締役

團野精一

右訴訟代理人弁護士

加嶋昭男

志々目昌史

主文

一  被告は、第一事件原告に対し、全七一四一万七八七九円を支払え。

二  第二事件原告の訴えを却下する。

三  訴訟費用は、第一事件原告と被告との間においては、全部被告の負担とし、第二事件原告と被告との間においては、被告に生じた費用の二分の一を被告の負担とし、その余は全部第二事件原告の代表者であるとする矢崎武昭の負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  第一事件

主文第一項と同旨

二  第二事件

被告は、第二事件原告に対し、金七一四一万七八七九円を支払え。

第二  事案の概要

本件は、第一事件原告及び第二事件原告が、それぞれ、被告衆議院支店に預け入れられている別紙預金明細表記載の各預金(以下「本件各預金」といい、個別には同表の番号で表示する。)債権が自己に帰属するものであるとして、被告に対し、右各預金の返還を求めたものである。

第一事件原告と第二事件原告である自由民主党同志会(以下「同志会」という。)は、もともと同一の団体であるが、その代表者が誰であるかについて右団体内部に争いがあるため、第一事件原告は右代表者が会長代行専務理事であるとする吉岡秀太郎(以下「吉岡」という。)であるとして、第二事件原告は右代表者が会長代行専務理事であるとする矢崎武昭(以下「矢崎」という。)であるとして、それぞれ本件訴訟を提起したものである。

一  基礎となる事実

1  同志会の法人格なきは社団性

(一) 甲イ六、甲ロ一、乙一、証人山岸勇一(通称名並木顕誓。以下「山岸」という。)の証言及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 同志会は、昭和三〇年ころに設立されたもので、自由民主党同志会規約と題する規約(以下「本件規約」という。)に基づいて運営されている。

なお、本件規約については、後記のとおり、平成五年一月一九日付け改正の有無が問題となるが、次の(2)の事実については、右改正の有無とはかかわりがない。

(2) 本件規約によれば、同志会は、自由民主党(以下「自民党」という。)の統制の拡張を図り、その発展を期して党の施策に協力し、その政策綱領の普及に努めることなどを目的とし(二条)、自民党の党員で、①かつて国会に議席を有したもの、②党員として特に功労があった者、③常任理事二名以上の推薦があり統制委員会において特に資格を承認した者を会員としている(三条)。

同志会の組織としては、役員として、会長一名、専務理事二名、運営委員、統制委員、常任理事、理事各若干名、会計監査三名等が置かれ、右役員は、総会において、会員の中から選任される(五条)。そして、会長が同志会を代表し、会長に事故があるときは、専務理事がその職務を代行する(五条)。また、同志会においては、最高の議決機関として、総会が定時(年一回)又は臨時に開催されることになっており、総会は、会長が常任理事会の議を経て召集する(六条)。そのほか、同志会の事務を処理するため、事務局が設けられている(附則)。

同志会の経費については、会員から納入される入会金及び会費等で運営されることになっている(三条、七条)。

(3) 同志会の平成六年三月一日現在の会員数は、一〇八一名である(ただし、その後、第一事件原告側と第二事件原告側とに会員が分かれるに至っている。)。

(二) 右事実によれば、同志会は、団体としての組織を備え、多数決の原則が行われ、構成員の変更にかかわらず団体が存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確定しているということができるから、民訴法四六条所定の法人格のない社団に該当するものと認められる。

2  本件各預金の存在

被告衆議院支店には、本件各預金が預け入れられている。(争いのない事実)

二  争点

1  同志会の代表者

(一) 第一事件原告の主張

(1) 吉岡は、平成四年三月一日、当時の会長細田吉蔵(以下「細田」という。)から専務理事を委嘱され、さらに、平成五年三月三日、同会長から専務理事を委嘱されて再任され、以来、専務理事の地位にある。

(2) 吉岡と並んで、木村剛輔(以下「木村」という。)も、当時、細田会長から同志会の専務理事を委嘱され、専務理事の地位にあったが、木村は、平成五年三月二九日、同志会の統制委員会の決定により除名処分され、右処分の通知書は、同年四月一日ころ、木村に到達した。

なお、木村の除名処分は、同月二三日に開催された緊急理事・常任理事会においても承認された。

(3) 右除名処分の根拠規定及び理由は、次のとおりである。

ア 本件規約は、平成五年一月一九日開催の定例総会の決議により改正され、改正後の本件規約(乙一。以下「本件改正規約」といい、右改正前のもの(甲ロ一)を「本件改正前規約」という。)八条において、「統制委員会は次の事項を調査審議し、適切な決定を行うものとする。」とされ、その三号において、「会の規律をみだす行為又は会員としての品位をけがす行為をした者に対する役職停止又は除名の件」と定められている。

したがって、本件改正規約八条により、会員の除名処分については、統制委員会がその決定権を有し、その決定により会員は除名されることになる。

イ 木村の除名処分理由は、次のとおりである。

① 木村は、本件改正前規約五条のうち、正しくは、「運営委員は、専務理事と協力し」とある部分及び「統制委員は、専務理事と協力し」とある部分を、それぞれ「運営委員は、専務理事に協力し」及び「統制委員は、専務理事に協力し」とそれぞれ改ざんした。

② 木村は、同志会の「自由民主党同志会」名義の預金口座から預金を無断で「自由民主財団準備会」という名義の預金口座に移し替えた。

③ 同志会においては、運営委員会の方針として、原則として地方には支部を作らないことになっていたにもかかわらず、木村は、地方の同志会支部の設立に関与した。

(4) 木村の除名処分により、専務理事は吉岡のみとなっていたところ、細田会長が平成五年四月二〇日に辞任したので、吉岡が本件改正規約五条により同志会の会長代行となり、同志会の代表者となった。

(5) なお、矢崎についても、平成五年四月五日に統制委員会において除名の決定がされ、そのころ、矢崎に対し除名処分の通知がされている。

したがって、会員でない矢崎が同志会の代表者となる余地はない。

(二) 第二事件原告の主張

(1) 本件規約は、平成五年一月一九日開催の定例総会において改正されていないから、第一事件原告主張の本件改正規約八条は効力を有しない。

そして、本件改正前規約八条においては、統制委員会は、単に除名の件について調査審議するとのみ規定されているにすぎず、除名の決定権はないから、統制委員会がした木村の除名処分は無効である。

(2) 吉岡は、山岸らと図って本件規約を無視した反乱的行動を繰り返したため、細田会長からその紛争処理を一任された専務理事の木村が、運営委員会に諮った上、平成五年四月八日、吉岡の除名処分の決定をし、そのころ、吉岡に対し、除名処分の通知をした。

(3) 細田会長が、同年四月二〇日に会長を辞任したため、木村が会長代行専務理事となったが、木村は、平成六年三月三〇日、矢崎に対し、木村が病気や死亡等により会長代行専務理事の職務を行うことができなくなったときは右職務を行うように委嘱した。

(4) 木村は、同年八月一六日に死亡し、同月二四日、矢崎のほか、運営委員二名、統制委員二名、常任理事四名、会計監査二名、理事二名の計一三名の出席した役員会において、矢崎が会長代行専務理事に選任された。

(三) 被告の主張

原告らの主張は争う。

2  本件各預金債権の帰属

(一) 原告らの主張

(1) 本件各預金債権は、同志会が預け入れたものであり、同志会に帰属する。

(2) 本件各預金のうち、番号12及び13の各預金が預け入れられた事情は、次のとおりである。

ア 同志会は、被告衆議院支店に、①自由民主党同志会会長細田吉蔵名義の定期預金・残高元利合計一四〇七万九二九六円、②自由民主党同志会会長細田吉蔵名義の定期預金・残高元利合計一一一一万四六四一円、③自由民主党同志会会長細田吉蔵名義の定期預金・残高元利合計一〇四二万六三三円(ただし、この金額については、平成五年四月一三日現在のもの)の三口の預金を有していた。

イ 木村は、右①及び②の預金については平成五年四月一二日に、右③の預金については同月一三日に、それぞれ預金通帳及び届出印を持参した上、解約し、払戻しを受けた金員を、番号12及び13の各預金として預け入れたものである。

(二) 被告の主張

本件各預金債権が同志会に帰属することは不知。

なお、原告らの主張(2)のうち、被告衆議院支店に①ないし③の各預金が存在したこと、それを原告ら主張のように木村が解約して払戻しを受けた金員を番号12及び13の各預金として預け入れたものであることは認める。

第三  争点に対する判断

一  争点1(同志会の代表者)について

1  吉岡及び木村の専務理事選任について

(一) 甲イ四、一一の1ないし5、一七、四一、証人山岸の証言、第二事件原告代表者本人の供述及び弁論の全趣旨によれば、同志会の会員の吉岡及び木村は、昭和六二年一月一九日の総会において当時の会長宇田国栄の委嘱により同志会の専務理事に選任されて以来、毎年再任され、平成四年三月一日及び同五年三月三日にも、当時の会長細田の委嘱により専務理事に再任されたことが認められる。

(二) 前記第二の一1(一)(2)によれば、本件規約においては、同志会の役員は総会において選任される定めとなっているが、吉岡及び木村が毎年会長の委嘱により専務理事に再任されてきたことは、総会の会長に対する専務理事選任権限のその都度の委譲に基づくものと解される。

2  本件規約の改正について

(一) 甲イ一四ないし二〇、四二の1ないし42、甲ロ二、証人山岸の証言、第二事件原告代表者本人の供述及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 同志会の会長には、自民党の国務大臣経験者等の長老が就任していたが、歴代の会長が老齢で、かつ、会長職が名誉職的なものであったため、専務理事のうちの一名が会長代行となって、会長職を代行してきた。

そして、木村は、専務理事に就任して以来、会長代行兼務となり、同志会の活動の中心となってきた。

(2) 平成三年ころから同四年ころにかけて、同志会内部において、会長代行専務理事の木村に関して、①同志会の経理が出納簿もなく、不明朗であること、②木村が地方における同志会の支部の設置に関与し、それにからんで金銭を受け取っている疑いがあること、③木村が同志会の事務局員の総会における酔余の職務懈怠行為について黙認し、処分もしないこと等について、会員の中から批判が生じていた。

(3) そのような状況の中で、平成三年九月ころ、批判勢力の一人であった運営委員の山岸から、役員会(構成員は、会長、専務理事、統制委員、運営委員)において、本件規約の改正及び細則の制定について要請があり、以後、役員会から一任された山岸及び統制委員の深田東吾(以下「深田」という。)が中心となって、本件規約の改正案及び細則案について検討がされた。

(4) 本件規約の改正及び細則制定の審議は、平成四年一一月まで継続され、細則案(甲イ三六と同じもの)については、同年一〇月二八日の常任理事・理事会において承認され、本件規約の改正案(本件改正規約と同じもの)についても、同年一一月一六日の役員会において承認され、こうして決定された改正案及び細則案は、同月一九日、細田会長の指示により、役員全員に配付された。

(5) 平成五年一月一九日開催の定例総会においては、議題の一つとして規約改正が掲げられていたが、その前日の同月一八日の役員会において、木村から、定例総会においては本件規約の改正案及び細則案を発表せず、右規約の一部を改正し細則も制定するということだけを報告すべきであるとの発言があった。これに対し、山岸その他の役員らから、既に三年間にわたって審議し役員会で決定済みの右改正案及び細則案をそのまま総会の議題に載せるべきであるなどとして、反対の声が揚がり、議論した結果、右改正案及び細則案のとおりに本件規約の改正及び細則の制定をすることを条件として、定例総会においては、会員に対して右改正案及び細則案を総括した形で報告し、その承認を得ることで、役員全員の意見が一致を見た。

(6) 翌一九日の定例総会においては、「規約改正の件準備委員会は、規約改正につき定例総会において議決承認されるべきものとして次の案を決定した。ここに報告する。」として、右準備委員会委員長の岡崎哲也が次の案を報告し、会員の承認を得た。

「自由民主党同志会第五四回定例総会は、自由民主党同志会規約改正の件につき、次のとおり議決した。

一  規約改正の要旨

①  役員の追加について。規約第五条に定める役員に「参与」を追加すること。

②  規約第五条に定める運営委員及び統制委員の性格と任務を明確にし、その職責遂行にいかんなからしめるようにすること。

③  規約の細則について、本規約施行のため、必要あるときは会長において随時細則を定めることができるものとすること。

二  改正要旨の明文化については会長に一任する。」

(二) そこで、右認定事実に基づき、本件規約の改正及び細則の制定の有無について検討する。

確かに、右定例総会における報告及び承認内容自体を見ると、果たして、本件規約の改正及び細則の制定につき総会の決議がされたといえるのか、必ずしも明らかでないが、右改正案及び細則案が役員会において決定されるに至った経緯及び右総会前日の役員会において最終的に一致を見た意見の内容によると、右役員会においては、既に、右改正案及び細則案の配付を受けていた役員の間において、右各案のとおりに本件規約を改正し、かつ、細則を制定することを条件として、右総会においては右のような概括的な報告をし、会員の承認を得ることで合意が成立していた上、右総会においては、議題として規約の改正が掲げられ、かつ、改正要旨が報告されて、その明文化及び細則の制定については会長に一任することで承認が得られたのであるから、右総会における会員の右承認に基づき本件規約の改正及び細則(甲イ三六の同志会細則。以下「本件細則」という。)の制定がされたものと認定するのが相当である。

3 木村の除名処分について

(一)  乙一によれば、本件改正規約八条において、「統制委員会は次の事項を調査審議し、適切な決定を行うものとする。」とされ、その三号において、「会の規律をみだす行為又は会員としての品位をけがす行為をした者に対する役職停止又は除名の件」と定められていること及び右規約には他に除名に関する規定は存在しないことが認められる。

そうすると、会員の除名については、本件改正規約八条が唯一の根拠規定ということになるから、統制委員会に会員の除名権限があるものと解され、したがって、会員は、同条に基づき、統制委員会の決定により除名されることになる。そして、甲イ三六によれば、本件細則六条において、各委員会は過半数の出席をもってその会議が成立するものと定められているほか、一一条において、統制委員会は委員長が召集するものと定められていることが認められる。

(二)  甲イ三、一四、一六、一七、二二ないし二四及び証人山岸の証言によれば、①平成五年三月二四日、山岸が統制委員会に対し、木村の除名を提訴したこと、②これを受けて、同月二九日午後零時から、統制委員長山崎武夫、統制委員原田彪太郎及び同深田が出席し、統制委員中村展雄は委任状を提出して、統制委員会が開催され(統制委員会は、もともと右四名から成っている。)、第一事件原告主張の除名処分理由に基づき、全員一致で木村の除名処分が可決されたこと、③山崎統制委員長は、右統制委員会の開催に先立ち、木村に対し、同委員会に出席して弁明するように求めたが、木村は、同委員会に出席しなかったこと、④統制委員会は、木村に対し、同月三一日付け書面で、同委員会名で除名処分の通知をし、右書面は、そのころ、木村に到達したこと、以上の事実が認められる。

右事実によれば、本件改正規約及び本件細則に基づき、木村の除名処分が適正な手続により行われたものと認められる。

(三)  そこで、木村の除名処分につき、処分理由として挙げられた事実の有無及び処分の適否について検討する。

(1) 甲イ一七、二八の1、2及び弁論の全趣旨によれば、本件改正前規約五条のうち、正しくは、「運営委員は、専務理事と協力し」とある部分及び「統制委員は、専務理事と協力し」とある部分が、会員に配付された昭和六二年六月三〇日当時の右規約において、規約改正手続を経ることなく、それぞれ、「運営委員は、専務理事に協力し」及び「統制委員は、専務理事に協力し」と改ざんされていたことが認められる。

そして、木村は、前認定のとおり、その当時会長代行専務理事の地位にあったこと、及び証人山岸の証言によれば、木村は、会務の運営において、右改ざんされた規定の文言を根拠に、運営委員及び統制委員は専務理事に従属する旨の主張をしていたことが認められることからすると、右改ざんは木村によってされたものと推認せざるを得ない。

(2) 甲イ九、二九ないし三一及び証人山岸の証言によれば、木村は、会長代行専務理事として、被告衆議院支店に預金されていた同志会を預金債権者とする「自由民主党同志会」名義等の預金の通帳及び届出印を管理・保管していたところ、右預金の一部を解約してその払戻しを受けた上、平成五年一月二二日、町村会館内郵便局に右払戻金一〇〇〇万円を「自由民主同志財団代表者木村剛輔」の名義で定額貯金として貯金したことが認められる。

木村が、同志会の預金を右のように払い戻した上、「自由民主党同志会」名義を使用することなく、「自由民主同志財団」という架空の名義を使用し、その上、その代表者を細田とすることなく、木村として貯金をしたということは、同志会の預金を不正に使用し、又は使用しようとしたと疑われてもやむを得ないものがあるというべきである。

(3) 甲イ一七、三二、三三の1、2、三四、三五及び証人山岸の証言によれば、同志会においては、地方において同志会の名を利用して種々の問題行動をする会員がおり、同志会の監督が地方の会員にまで行き届かないおそれがあったことから、平成三年六月二〇日開催の運営委員会において、原則として地方には支部を作らない方針を決定したこと、ところが、木村は、平成三年九月ころ、神戸市を中心とする同志会兵庫支部の結成に関与し、さらに、平成四年七月ころ、名古屋市を中心とする同志会東海支部の結成にも関与したことが認められる。

右認定した(1)ないし(3)の事実によれば、統制委員会が木村の除名処分の理由とした事実がいずれも存在することが認められる。

そして、同志会のような私的団体の除名処分については、団体自治の尊重の観点から、社会通念に照らして処分理由とされた事実により除名することが著しく苛酷であるなどの特段の事情の認められない限り、右事実が存在する以上、除名処分は有効と解するのが相当であるところ、木村の除名処分について、右のような特段の事情は認められないから、右除名処分は有効にされたものというべきである。

4 吉岡の除名処分について

第二事件原告は、吉岡について、専務理事の木村が細田会長から一任されて運営委員会に諮った上、平成五年四月八日に吉岡の除名処分を決定した旨主張するが、右3で認定判断したとおり、当時、木村は、既に除名処分されて専務理事の地位はもとより、同志会の会員の地位も喪失していた上、手続的にも、右原告主張の吉岡の除名処分は統制委員会の決定によるものではないから、いずれの観点からみても、右除名処分は無効であることが明らかである。

5 吉岡の同志会会長代行について

乙一三及び弁論の全趣旨によれば、細田は、平成五年四月二〇日に同志会会長を辞任したことが認められるから、それに伴い、本件改正規約五条の規定により、当時ただ一人専務理事の地位にあった吉岡が会長代行の地位に就いたものと認められる。

6 矢崎の同志会会長代行について

第二事件原告は、矢崎が、平成六年三月三〇日に木村から同人が病気や死亡等により会長代行専務理事の職務を行うことができなくなったときは右職務を行うように委嘱されたとした上、同年八月二四日にその主張の役員らが出席した役員会において矢崎が会長代行専務理事に選任された旨主張するが、前示のとおり、木村は右原告主張のころは既に専務理事の地位はもとより、同志会の会員の地位にもなく、吉岡が会長代行専務理事の地位にあったものである。その上、右原告主張の役員会に専務理事を選任する権限のないことは本件改正規約上明らかであるから、右役員会の選任により矢崎が同志会の会長代行専務理事の地位に就く余地は全くないというべきである。

7 まとめ

以上によれば、専務理事の吉岡が細田会長の辞任に伴い会長代行の地位に就いたことが認められ、その後、同志会において総会の決議に基づき会長が新たに選任されたことは証拠上認められないから、現在においても吉岡が会長代行專務理事として同志会の代表者の地位にあるものというべきである。

したがって、第二事件原告の訴えは、同志会の代表者でない矢崎が右代表者を僣称して提起したものというべきであるから、不適法であり、却下を免れない。

二  争点2(本件各預金債権の帰属)について

1  本件各預金のうち番号1ないし11の各預金については、前認定のとおり、木村は、会長代行専務理事として、被告衆議院支店に預金されていた同志会を預金債権者とする「自由民主党同志会」名義等の預金の通帳及び届出印を管理・保管していたこと、甲イ八及び弁論の全趣旨によれば、木村は、除名処分された後も、右通帳及び届出印を会長代行専務理事の吉岡に引き渡さず、そのまま管理・保管していたことが認められること、甲イ四三によれば、同志会の平成四年度収支決算書において前年度繰越金として七〇一九万円余が、翌年度繰越金として八四七三万円余がそれぞれ計上されていることが認められること及び右各預金の口座名義人の表示を総合すると、右各預金の債権者は同志会であると認定するのが相当である。

2  本件各預金のうち、番号12及び13の各預金についても、前項に掲げた事実に加えて、前記第二の二2(一)の原告らの主張(2)のうち、被告衆議院支店に①ないし③の預金が存在したこと、それを第一事件原告主張のように木村が解約して払戻しを受けた金員を番号12及び13の各預金として預け入れたものであることが右原告と被告との間に争いがないことを総合すると、右各預金についても、その預金債権者は同志会であると認定するのが相当である。

第四  結論

以上によれば、第一事件原告の請求は理由があるから認容し、第二事件原告の訴えは不適法であるから却下し、主文のとおり判決する(なお、矢崎の訴訟費用の負担については、民訴法五八条、九九条を適用した。)。

(裁判官横山匡輝)

別紙預金明細表〈省略〉

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